糖尿病について
“糖尿病とは”
血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が上がる病気です。
血糖値が高くてもすぐに問題となることはあまりありませんが、数年間続くと全身の血管を障害して合併症をひきおこす可能性が高くなります。
この合併症を防ぐために血糖値を下げることが糖尿病の治療の目的です。
・糖尿病性神経障害 両足のしびれ・痛み 立ちくらみ など
・糖尿病網膜症 視力低下 失明 など
・糖尿病性腎症 タンパク尿 むくみ 人工透析 など
・心筋梗塞 急な胸の痛み 心停止 など
・脳梗塞 手足の麻痺 呂律がまわりにくい 転びやすくなる など
・足えそ 足の皮膚が赤くはれる 足が腐る など
・歯周病 歯肉の痛み 歯が抜ける など
高血糖が軽度の場合や境界型糖尿病の時には自覚症状はありません。
・健康診断で血糖値が高めだと指摘された。
・ほかの疾患で受診した際に尿糖が出ていると指摘された。
・HbA1cが高いと指摘された。
等の場合には症状がないことがほとんどです。
「症状がないので様子を見よう」
「健康診断の先生も"注意しください”程度だったので自分で食事を気を付けよう」
「自分の家系には糖尿病はいないから何かの間違いだろう」
「忙しいから症状がでたら治療しよう」
と自己判断してしまい、数年後には糖尿病となってしまったり、すでに糖尿病による合併症が出現してしまうことがあります。(“軽症糖尿病とは?”参照)
糖尿病状態で症状がある場合とは?
これは著明な高血糖のため早急な診断と治療が必要な状態です。
血糖値が240以上が持続するようになると明らかな高血糖症状が現れる事があります。
これは食べた食事が体内に吸収されずに血液中(高血糖)から直接尿(尿糖)へ出て行ってしまっている状態です。この為せっかく食べた食べ物は栄養とならずに体を素通りしてしまう状態です。
この場合には下記のような症状が出現します。
(多尿) 尿量が増える 尿が頻回にでる 尿が泡だつ 夜中にトイレに行く(“頻尿とは?”参照)
(口喝)のどが渇く 飲み物をたくさん飲みたくなる
(体重減少)食べてもおなかが減る 食べても体重が減る(3㎏から10㎏以上痩せる場合もあります)
さらに重症では
・吐く(嘔吐)、強い体のだるさ(全身倦怠感)もうろうとする(意識障害)など (糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) 高血糖性高浸透圧状態(HHS)・・・ 血液が酸性に傾き、血液や尿にケトン体が認められ緊急の状態です。すぐに適切な治療(大量の生理食塩水の点滴、一時的なインスリン注射など)を始めないと最悪の場合死亡します
“軽症糖尿病とは”
医学的には“軽症糖尿病”の定義はありません。一般的にはHbA1c(ヘモグロビンA1c)がそれほど高くない(7%未満)随時血糖値(空腹時)は高くないが食後高血糖だけめだち、糖尿病特有の細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)を認めない状態を指すことが多いでしょう。
軽症糖尿病の病態
健康な人の場合は食事の摂取で体内に糖が流入するのと同時にインスリン追加分泌が始まり、肝臓の糖放出抑制・取り込み増加、末梢での糖取り込み増加によって血糖値の上昇は軽度で、かつ速やかに下降します。言い換えると食事をとっても速やかにインスリンホルモンが分泌され食後の血糖値は上昇しません。しかし肝臓のインスリン感受性が低下すると、食事摂取後の糖放出の速やかな抑制や取り込みの促進がなされず、食後は一過性に高血糖になります。この時期には空腹時血糖は正常でも食後血糖値が140以上に上昇していたり、HbA1cが正常値を超えていたりします。ただし定期検診や人間ドックでは、十分な説明ができず、患者様に誤解を招いてしまい「糖尿病ではない」ので心配ないと考えられてしまいます。また医療者側も治療の必要性を強くは認識しないケースがみられます。
軽症糖尿病の問題点
軽症糖尿病の問題点は患者側も医療者側も治療の必要性を強く感じない事がある点が大きな問題点となります。糖尿病は持続的な高血糖による細小血管障害(神経、目、腎臓)による合併症を防ぐためには血糖値を下げておけばよいのです。したがっていわゆる軽症糖尿病ではこれら最小血管障害の発症は心配ないレベルと考えられるでしょう。軽症糖尿病を「放置」しても、それを差し迫った問題としてことさら大きく取り上げる必要性はないかもしれません。しかし、食後高血糖によって刺激される遅延過剰型のインスリン追加分泌は、肥満を助長することになり、末梢組織でのインスリン抵抗性も亢進します。やがて膵臓が疲弊しインスリンの基礎分泌も低下して、顕性の糖尿病へと移行します。つまり軽症糖尿病の多くは、将来的に糖代謝異常が'軽症'のまま推移するのではなくて、'中等症'または'重症'の糖尿病へと進行する過程にあたるということです。
また食後の過剰なインスリン分泌は、高血圧、高脂血症を惹起し大血管障害を進行させる、メタボリックシンドロームと呼ばれる病態を形成します。近年、心血管系イベントが発症する前の動脈硬化症の診断に、Bモードエコー法による頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)の測定が用いられますが、境界型あるい軽症糖尿病の段階ですでに、動脈硬化が明らかに進行していることが指摘されております。糖尿病の治療目的は最小血管障害を予防するだけではなく、近年増加している脳梗塞、心筋梗塞の予防にあるのです。これら脳梗塞・心筋梗塞の予防には長い時間が必要です。5-10年と長い期間血糖値、血圧、脂質コントロールをしっかりすることで初めて脳梗塞心筋梗塞を予防できるのです。したがって50歳代、60歳代で脳梗塞心筋梗塞にならないためには40歳代50歳代からしっかりと軽症糖尿病を治療しておくべきです。